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オムニバス 第2話

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「淑女は国家の美しき武器」

先のインテリアデザイナーの出自がすごい。母親がオランダ王室と縁続きの貴族と日本人との混血で、父親は日本人だが欧州で外交官をしていた人だ。学童期を欧州で過ごし、資産家でもあったことから王室が主催するパーティにもよく出席し、あどけない笑顔で周囲から可愛がられていたという彼女。

しかし、幼い頃はパーティに出席する欧州の貴族の奥方を嫌っていた。それは幼い娘にとって周囲に配慮しない、わがままな女性達に辟易としていたからに他ならない。ことに育てられた老乳母から日本のナニワ節を叩き込まれていた彼女にとって、年配でありながら慎みがない(ように見えた)彼女らが我慢ならなかったのだ。日本の「恥らい」や「嗜み」は世界に自慢できる文化遺産。恥らいは未熟ゆえの可愛らしさ、嗜みは慎みの性格や人間の奥行きを表してくれるが、そこには日本が長い間に培った民族性や高い知性がある。それらに当てはまらない淑女を美しいとは感じられなかった。

そして日本に移り住んだ彼女が目にしたのは、正義感も倫理観もなく、何の迷いもなく平然と安直な答えを出す同級生やその母親の姿だった。品のない金銭感覚、横並びでことたれりとする向上意欲のなさに落胆した。傷つくことを恐れて目立つことを嫌い、行動範囲の狭さや自由な発想のなさは貧困な知性に帰着する。周囲への配慮もひがみや卑屈な精神の発露であっては、慎みとは別もの。人間不信に陥った娘は思春期になると留学を試みた。そして欧州の下町に住み、苦学しながら生活を送る経験を積むにつれ、視点が論理的になるにつれ、貴族の言動が理解でき、貴族の女性に対する宥恕の気持ちが湧くようになる。彼女らも貴族社会の犠牲者である、そう感じるようになった。

帝政国家の淑女とは武器に他ならない。戦士とは異なり直截的に相手を殺すことはしないが、嫁ぐことで友好関係を結び、長い時間をかけて相手を威圧し、最終的には戦わずして敵国を懐柔させる。金のかかる武力を尽くすより、美女を献上する方が比較にならないほど安上がり。淑女とは戦わない武器、国家の美しきファイナルウエポン。視点を変えれば、貴族の娘とは敵国の捕虜候補なのだ。

敵国の大将を落とすことに自国の存亡がかかるから、その美しさは誇示しなければならない。とはいえ敵国にも美人はいる。その捕虜の美貌をより高めるために、美しく着飾るのである。その美女をより輝かせるために、ファッションや宝飾、オシャレの技術は飛躍的に高められた。ダイヤモンドもドレスも蠱惑的な化粧法も、敵を零落させる武器であり、戦略なのである。そういう意味ではオシャレは科学の結集でもあった。欧州貴族の装飾品が洗練されているのは、蓄積があるのは、そういう理由だ。それが理解できた時、彼女にはパーティの主役である貴族の淑女が道化者に見えた。

そして自分は同じ道を歩まぬことを選んで、将来の道を自力で歩み出す勉強を始めた。以来、彼女は自分の決断に責任を問われることになる。厳しさや寂しさも知ったが、結婚も自分で決め、真の自由を得た。

しかし彼女はファッションの美しさ、華やかさ、荘厳さ、女性として着飾る楽しさをよく理解していたから、貴族らの知遇から得たファッションセンスまで手放す気はなかった。オシャレのノウハウやその蓄積、金銀財宝を保持していることのすばらしさやメリットは計り知れない。貴族の仲間には入らなくとも、オシャレのコツやファッションのノウハウは広く使える。自分が貴族でないことさえ自覚していれば、貴族のオシャレには一般人でも使えそうなヒントが数多くあると彼女は言う。

その一例が、主題を明確にすること。シルバーのブローチがあれば、それをいかに引き立てるかが重要になる。そのためには銀が映える色調のドレスを着、宝石の周辺はシンプルにするという配慮が欠かせない。目立たない場所にもシルバーをコーディネートし、他の宝飾品は使わないことだ。

これらはすべて周囲認識。5W1Hをよく考えて、どういう状況にあるのか、今後どうなるのかを理解していれば、どんなファッションをすべきか範囲が限定される。その範囲の中から選ぶ衣装が、その人の個性というわけだ。選択肢がなければファッションも取り止めのないものになる。



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