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オムニバス 第14話

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「銀を袷た和服の嗜みとは」

着物美人の彼女が知人に紹介されて知り合ったのが、銀製品の製造工場で働く初老の女性職人だった。知能指数が高いことでその世界では知られた人だが、人との権謀術数が嫌いとして、銀製品の職人として、技術者として浮世とは掛けはなれた世界ですばらしい銀製品を創り続けているという人だ。生活に密着した、日本人に合う銀製品を世に出したいというのが信念の人で、銀製品の評価を世間に高めるのに大きく貢献をしていることからも、彼女の製品は引く手あまた。最近では闇値までついているといううわさ。

とはいえそういう世間の無責任な風評を嫌い、利益のみを目的として近づいてくる人を嫌う彼女としては、自分の制作姿勢も変えなければ面会を請う新たな業者と会うこともしない。黙々と、自分の好きなものだけを創り続けている。彼女の能力も性格も知っている銀工場の経営者は彼女を看板に使うこともなく、彼女の好きなように制作させている。自己規制もでき、大人である彼女に、余分な負担を掛けることで生産性を下げる危惧を犯さない知性も併せ持っている。

着物美人と銀職人の双方の性格をよく知っている知人が、お互いのプラスになるから是非にと会わせたことで、二人の年齢を超えた友情は始まった。といって、二人で飲みにいったり遊び場ではしゃぎあったりというわけではないが、時々お茶を飲んでたわいない会話を交している。そしてお互いの知識や感性を交換しあっている。二人とも、その時間を「充実した時間」と評価しあう。

銀製品の製造行程が一般人には知られることは少ないし、あまり必要とされることはない。知性があるだけに、その女性職人は製造行程をくどくどと説明することはしないが、その行程で得られる数々のノウハウが一般社会にも女性のセンスアップにも使えることを知っている彼女をして、娘のような年ごろの女性と会話を交すことで技術が意味を持つことを確認している。若い娘としては年輪を経た贅沢の極致を支える銀製品の製造行程の周辺の話しはすべてが新鮮で、銀の文化にまで深い造詣を持つ先輩の話しは、オシャレを嗜む女性としても聞き逃してはならない貴重な情報なのである。その職人があえて教えてくれた銀製品を使ったオシャレの極意は、状況の把握。その深みと先読みが、単に美しいだけでない気品や知性を醸し出すのだと説いた。だから銀を使いこなすには、もちろん経験もものをいうが、最後は知性が頼みの綱になるのだという。

「反対に状況把握のない贅沢、お金をかけただけの、銀を使っただけのオシャレに敬意は表されないわ。金持ちとして羨ましがれても、そのセンスを感心され、着こなしが尊敬に値することはないわね。門前の小僧さんが習わぬお経を読むのと同じで、暗記だけのお経には誰もお布施を払うわけないじゃない。高そうな和服なら誰が着ても高そうに見えるけど、粋な着こなしは誰にも出来るものではないが」。和服の正しい着付けの出来ない人が着崩すと、水商売の人にしか見えない。

「水商売が悪いのではなく、その目的が違うの。生まれてこの方の贅沢が染みついている上流階級に向けた着こなしと、社会的な蓄積も知性もない若いだけの男性に媚びを売るための着付けが同じでいいはずはないわ。着こなしを芸者みたいと言われて喜んでいた女性がいたけれど、褒め言葉ではないのよね」

けして饒舌ではない職人だけれど、親しくなった彼女のために真剣に教えてくれたのだった。そして彼女のためにと、職人が考えたとっておきの銀製品を手渡したのだった。

それが着物のための帯留めと、それとデザインを統一させたブローチと髪抑え、裾抑えだった。和装のための装飾品というと、円や曲線や球形をあしらったデザインが多い。家紋の形がそこには大きく影響し、その根底には匂玉があるのだろうが、直線や四角形状で和装にしっくりくるデザインというのは思いのほか少ない。彼女がデザインしたブローチは、√2の長方形を二つに割った形の小さな直角三角形で、中には小さな正方形が浮き彫りにされている。その四角形を除いた地はいぶし銀になっていて、その四角形だけが優しい輝きを与えている。裾抑えとは和服の前身頃の裾裏に付けるタッグ状のブローチで、必要以上に裾が開いたり着崩れを防ぐ役目を果たす。しとやかに歩くと裾裏の銀が粋に輝く、和服にも詳しい職人が考えた和服のためのオシャレだ。

4点とも同じデザインだが、すべてを付けてはいけない、と職人は指示した。ブローチは帯と帯留めがどうしても合わない場合、帯留めをしないときにこそ使うもの。すべてを付けては銀を誇示しすぎて、品が落ちてしまう。2品か3品でコーディネートを、と言い与えた。



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