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オムニバス 第15話

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「子供の経験は大人の宝」

着物美人はせがまれて、子供の買い物につきあわされた。その子供というのが婚約者の姪とかいう小学生で、オシャレに目覚めたのか、しきりと着物美人にまとわりつく。そして、上野のアメ横にまで化粧品を買いにつきあえと誘うのだった。

もとより繁華街は嫌い、ことにあのアメ横の雑踏は足の踏み場もなく、オジサンの鼻息を避ける場所もないという混雑ぶりは知られるところ。よりによって上野はない。

「あなたみたいな年頃だったら、原宿とか渋谷じゃないの?」と言うと、その小娘は

「原宿にはその帰りに寄るからいいの。アメ横で買いたいものがあるんだから」

ということで嫌々つきあわされることとなったが、その上野はアメ横でおもしろい発見もした。これも銀職人とおつきあいを始めたからかな、と笑みがこみ上げてしまったのだ。知らないうちに、アメ横に売っているチープな銀製品に目が行ってしまう。もちろん高級な銀製のブローチやイヤリングもあるのだが、学生相手のような、あまり高級品が似合いそうもない若い人向けのブレスレットやピアスが、そこここに売られていた。銀とは高価だと思っていた着物美人にとって、これほど身近に銀が存在することを初めて認識したのだった。

そして海外の化粧品メーカーの口紅やオーデコロンをあさっていた小学生に、銀のオシャレを試みた。途端にその大人びたオシャレを気に入ってしまった小学生は、化粧品そっちのけで銀製品を探し回り、着物美人もそれにつきあわされることと相成った。価格の安さを求める小学生に、「価格ではなくその価値を見てご覧なさい」と教えていた着物美人だったが、やがてあることに気がついた。

指輪だとペンダントだのブローチだのという違い、チープな価格での若者向け、大人の女性向け、年輩者向けというデザイン的な違いはあるのだが、そこにある種の法則性があることを発見した。銀製品の存在やデザインが表現したいもの、そこにカテゴリー分類ができそうなのだ。

ただ銀であればいいもの。銀の高級感や価値感を知らしめることで、その存在を誇示しているもの。銀の代わりに金や他の貴金属、ダイヤ等の宝石でも同じことがいえるが、デザインが孤立しているチープな製品にそれは多い。

反対に銀でしか表現できないもの。いぶし銀のようにその特性をよく知った上で、その魅力をより引き立てるためのデザインやその他の処理がなされているもの。これはダイヤでも何でもそうだが、高級品に多い。デザインは価格を表すということなのだろうか。

たとえばキリスト教徒が十字架のアクセサリーをする、船員が舵輪をあしらったブローチをするが、それと同じように現在関心がある、心を占めている事象や趣味を代弁させるもの。タレントのブロマイドを財布に潜ませている女子高生と思えばいい。

軍隊などで配給するミリタリー調のドッグタグが、最後の分類にあたる。趣味の領域でもあるのだが、唯一異なる点は、そこに階級という認識を持ち込んでいることにある。二等兵であったり軍曹であったり、将軍であるというように。男性に多い傾向だろうが、ヒエラルキーを趣味の世界にまで取り込んでしまうのは、そこに現実社会から逃げられない性があるように思える彼女だった。好きなら全員、もっとも偉い将軍や元帥になればいいものを、最前線の戦士、戦争のプロたらんとするのは、ある種の責任回避があるように思えてならない。

ともあれ、上野のアメ横の雑踏の中でそんなことを考えてしまった着物美人だった。小学生にはチープな指輪と、ちょっと小学生には不釣り合いの大人びたデザインのブローチを買い与えた。

「こんな高いもん、似合わないよ!」という小学生に、彼女は優しく話してあげた。

「あなたがもっと大人の女性になって、すばらしい美女になって好きな男性が現れた時に、みすぼらしいかっこしかできなかったら恥ずかしいじゃない? これはそのための訓練なの。すてきな大人になるための訓練として買ったのよ。

可愛いから女性はもてるわけじゃないの、すばらしい女性の仕草や立ち居振る舞い、賢い言葉遣いを可愛く思えるから、男性が好んでくれるの。でも、それは今日一日頑張ったからって身につくことではないのよ。

仮によ、仮に猿や豚が金銀宝石で飾って、それに惚れる人はいないでしょ。寄ってくる人は、その宝石が欲しいだけ。このブローチは、まだあなたにとってはそれに近いかも知れない。でもその訓練を積んでいなければ、あなたが20才になっても30才になっても、もしくは死ぬまで大人のオシャレが身についていなかったら寂しいじゃない」

小学生はうなづき、ブローチをしっかり抱きしめた。



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