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オムニバス 第16話

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「手作り銀製品の味わい」

「銀の勉強の足しにしてください」という手紙と共に、銀の職人から粘土が送られてきた。

粘土、というなかれ。家庭のオーブンで焼けば、れっきとした純銀の製品となる粘土なのである。家庭でできる彫金の一種として、最近は人気が高まっているというのだ。それで銀への関心や親近感が高まるのなら、効果としては低くないものがあるのだろう。

もちろん知性のある銀職人だから、できたものを見せろだとか評価してあげるといったことを言ってくるとは思わない。しかし、だからこそ使った印象を正しく伝えることが銀職人への友情の証になる。なにも銀製品を作る職人になる必要はない、銀が良いものだということは銀職人の人生が語っている。それに近づいたことの感想を彼女の言葉で述べればいいのだ。

お互い、傷つきやすい心を持っている。それを傷つけられてきたという歴史も共にあることを知っている。だからこそ、相手の心の奥底には相手の了承なくしては入り込まない、という暗黙の了解ができあがっている。それが知性のある二人の友情なのだ。傷をなめ合うことでいやされることなど、ほんの表層でしかないことを知っている二人は、そういうつきあい方を今後も続けていくことだろう。

そうした思いやりを感じつつ、解説書を読み送ってくれた粘土をこねながら、銀職人なら何を作って欲しいと考えるか、それに思いを馳せていた。高度な技術を要するものなど作れない。小皿を作ったところで、知性のカケラも必要としない。これまで銀職人からもらったもの、譲り受けたもの、金銭を対価として購入したものなど、そこそこの数の銀製品は揃っている。もちろん彼女の家の経済状況も考えて、とんでもなく高い銀製品は、たとえただで譲るとしても渡してこなかった銀職人だ。それにしても価格以上の価値のものは手渡されているはずだ。

考えに考えた挙げ句、彼女は袱紗留めを作ることにした。着物を着る機会の多い女性にとって、下手なブランドもののバッグは着物の生地や柄、その雰囲気とを合わせることは難しい。というのも、日本には袱紗や風呂敷という優れたバッグが存在するからだ。

和服を着ているとわかるが、袱紗や風呂敷以上に合うバッグはほとんどない。高そうなバッグ、似合いそうなバッグはあっても、真に合うかと問われれば、まともな日本の女性なら袱紗に軍配が上げるはずだ。知らなかったり知性のない女性は別として、それだけの蓄積があり、日本の文化となっているのだ。

彼女だって洋装の時に使うバッグは少なからず持っている。とはいえ、荷物が多い場合はともかく、袱紗や風呂敷の方が汎用性は高く、収納力は大きく、使い終えた後の整理のしやすさを考えると、ちゃちなバッグを持つ気にはなれなくなる。風呂敷とのペアになったものや色違いを含め、数多くの袱紗を持っている。

ということで、袱紗のはじを止めるピンを思いついたのだ。もちろん、着物の帯留めや裾抑えが心の中にはある。とはいえ同じデザインにはしたくないし、銀職人が作ったものと同じでは出来の違いが明白になってしまう。プロと競争する気にはなれないが、それでも露骨に腕の差や知性の違いが出てしまうことは避けたい。どういうデザインにしようかと、楽しみながらも頭を悩ませていた。

袱紗を留めるためには、大きくては使いずらい。細かな細工が必要と考えていたら、銀職人からペースト状になった銀材料とシリンジタイプ、ノズルや注射器に入れて細かな細工に使う銀材料が送られてきた。相変わらず細やかな配慮ができる銀職人だ。最初からでは使い勝手がわからず混乱してしまう。内容が飲み込め、必要を感じた頃に新たな材料を送るというような芸当は、あの人にしかできない。

結果として着物美人が考えたのは、正方形のピンタッグだった。台形にして厚みを持たせて裏側にピンを付けたが、それだけではピンの接着力が弱く、すぐに剥がれたり壊れてしまう。そこで表面にシリンジで太めの線を浮かせて配し、それでピンの補強具を隠すようにした。太めの線はピンセットの先で模様を付け、赤いインクで目玉を付けて蛇の頭をデザインした。

なかなかの出来映え、素人の初めての作品としてはいけてる方ではないか。もっとも風呂敷用にもう一つ作ってみたら、まるで印象の違うものができ、もう一度作り直そうとしたら、前のものも壊れてしまった。素人が作るものは所詮そんなものだろうが、楽しくはあった。

その経過や印象を銀職人に話したら嬉しそうに聞き入ってくれ、出来上がりについては何も聞かれなかった。



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