「知恵ある銀製品の調べ 1」
ひょんなことから、本当にひょんなことから着物美人と銀職人とで展覧会を催すことになってしまった。
娘の恋人が学会の席で、これまでしたことのなかった品のいい銀のブレスレットを教授に尋ねられた時に、これがかの職人の作だと話したことから、その教授は奥さまから漏れ聞いていて買い与えることのできなかった職人の名前が聞かれたことで、それならぜひに紹介しろと迫ったのだった。職人の性格など聞いていず、状況を知らなかった若き講師は、教授の願いならと安請け合いしたがあにはからんや、教授会の奥さま連中に知れ渡ることとなり、それならばと女性講師陣やアシスタントの女性からも注文が殺到して、収拾がつかなくなってしまった。
慌てて彼女にことの顛末を伝えたが、それを聞いて、婚約者の立場を悪くすることもできない彼女は思い悩んでしまった。銀職人に言えば、彼女のことだから無理は聞いてもらえるかも知れない。しかしそれでは彼女に無用な制作を強いることになり、友情にひびが入るのも困る、何より二人のいい関係を崩したくはなかった。
悩んだ挙げ句、この二人の紹介者に解決策を考えてもらうために会った。彼女の答えは「あら、いいわよ」
「あたしの知り合いのプランナーで、そういう込み入った事情になるほど強い、状況把握と解決力に秀でた人がいるの。もちろん優秀なんだけど、普段からそれを自慢しているから、どんな難題であっても断れないじゃない。なにか困ったことがあったら頼むことにしている、便利屋もどきの天才ってとこかな」と早速にも携帯電話を取り出した。
頭を掻き掻き現れたのは、ボサボサの髪でジーンズの上下を着た30才過ぎの男性で、プランナーというよりはデザイナー崩れのディレクター、どうみても優れた頭を持っているようには思えない。ブチブチぼやきながら椅子にドサっと座り、「何だか最近は雑用全般お任せの便利屋みたいな呼ばれ方をしているなァ。で、今日は宇宙人の死骸でも始末させる気。あなたがややこしい話を持ち込んだ張本人だね」
ざっくばらんな話し方を初対面の人にもする彼は、気は良いみたいだ。ウンウンと頷きながら話しを聞き込むと、取りだしたノートに状況を書き出す。そしていくつかの質問を彼女にする。銀職人の名前も彼は知っていて、二人の関係を話すと感心したようだった。
「あの人と交友があるんだ ……。それなら粗末に扱うことはできないやね。彼女、優秀だもん。なんつったって頑固なのがいい。よし、わかった。状況は把握できたし解決すべき方向も見えた。任せなさい」
あまりにも安請け合いされたので、彼女は少し心配になってしまった。
「なんとかなるんですか?」と尋ね返す。
「うん。こういう問題は構造の分析、要するに人間関係、原因や理由という因子をできる限りバラバラにしてしまうとよくわかるんだ。ジクソーバズルだね。で、今度はそれを別な絵に組み立て直すと解決する。後は心理学。大事なのは、その際の人の気持ちを納得させられればいいのさ。なんと言っても現状より良けりゃいいんだから、多少ピースがずれてたって、人が満足してくれれば後は時間が解決してくれるさ。任せてくれるね」
彼女は頷くより他になかった。そして後日届けられたのが『知恵ある銀製品の調べ』という展覧会のお知らせ。その進行と庶務の欄に、彼女の名前が標されてあった。添えられた書類には彼女がすべき役割が整然と書かれている。
彼女が銀職人に電話をすると、すでに状況を心得ているらしく「パーティではよろしくね」と念を押されてしまった。そして銀職人が持っている絽の着物で出席することになっているから取りにくるように、との指示があった。
「あのプランナーの言う通りになさい」というのが電話を切る前の銀職人の言葉。それより彼女が気になったのは、このような展覧会をパーティと呼ぶことだった。この世界ではそういう表現の仕方をするのだろうかと奇異に感じ、印象に残った。
彼女は展覧会に出品する銀製品の制作で忙しいはずであろうと思い、早々に職人の家を訪ねる。そこにはあのプランナーもいて、図面と首っ引きだった。「オウッ」と手を上げたきりで、後は他人のようにノートパソコンにデータを打ち込む。職人は職人で、超高額品であろう滅紫(けしむらさき)色の平絽の着物を渡し、絽の着付けのコツを少し教えただけで、工房にこもってしまった。
パーティの様子は次回に。しかし、この展覧会には大きな仕掛けが隠されていた。